海と風と人と
伊藤 立平(伊藤立平建築設計事務所)
サーファーは、 波を求めて海へ出る。
その季節、 その日、 その時間、 その場所にしかない波に乗る。
サーフィンとは、 波と、 風と、 人とが一体となる芸術的瞬間のことである。
サーファーは、 寛ぎの棲み処を求めて海を眺める丘を想像する。
その丘で、 その季節、 その日、 その時間、 その場所にしかない風を感じる。
サーフィンで研ぎ澄まされた芸術的感覚は、
きっと人間の持つ潜在的な 「住む力」 をも呼び起こし、
太陽と、 風と、 海と、 生活とが一体となるバランスを空間にもたらすだろう。
きっとその空間は、 つねに美しく、 日常的であり、 様々なものが生き生きとし、
そして常に瞬間的であり、 二度と同じようには立ち現れない空間なのである。
敷地は、七里ヶ浜の丘を登った、眺めのよい中腹にある。
南から太陽の光を浴び、海からの風が通り過ぎる場所である。
七里ヶ浜の山には中世の山城跡があり、防空壕の跡もある。
それらは柔かい岩肌を削った後として今もその形を留めている。
削りやすい岩肌を生かし、敷地内の岩を削り、出た土で整地し、土の空間をつくる。
土の空間は住むこともでき、木で出来た空間の暖かさ・寒さ・湿度を調節する「風の道」でもある。
サーファーがこの場所に暮らすとき、
日々過ごしやすい場所を選べるようにしたい。
建物が「気象」を心地よく調節する様を
住み手と共有することで、様々な使い方に応えられる家にしたい。
例えば、「波」の情報がウェブやスマホで分かるように、
「風」の情報を見えるようにしながら設計することができる。